バラード 第4番 ヘ短調 作品 52

ショパンの4曲のバラードの中でも最高傑作といわれるこの曲は,1842年頃に作曲されたそうです.1842年といえば,日本はそろそろ幕末といわれる時期で,大塩平八郎の乱が起こったりした後に水野忠邦が登用され,天保の改革を実施しようとしたものの,わずか3年で失脚しそうになっていた頃です.世界を見ると,アヘン戦争が中国(清)の敗北に終わり,イギリスがこの世の春を謳歌していた頃のようですね.と,曲には全く関係ないのですが・・.

この曲は,作品番号が 50 番台のいわゆる最高傑作集の中にあって,珍しく短調の曲(英雄ポロネーズスケルツォ4番,即興曲3番などは長調)になってます.よくショパンの曲は短調が多いようなことを言われるのですが,私が全作品の調性を調べて見た限りでは,短調の曲のほうがやや長調よりは多いという程度で,実際にはそれほど数的な違いはありません.ただ,有名な(傑作といわれる)曲に短調が多いということだと思います.調性だけみれば,ヘ短調変イ長調の曲が結構多く,有名な曲でも例えばこのバラード4番もヘ短調ですし,幻想曲,協奏曲2番がヘ短調英雄ポロネーズ幻想ポロネーズ,バラード3番などは変イ長調だったりします・・と,話がそれすぎなのでこの話は別の機会にでも.


この曲は,最初は静かでじわじわと後半に向かってテンションが上がって行きます.ショパンの曲は「緩急」がはっきりしていて,緩の後には急が,急がきたらその後は緩が,というようになっている曲が多いです(と思う).にもかかわらず,この曲は「緩急」という波自体が最初は「緩やかな緩急」であるのに,だんだんと全体的に激しくなっていって,最後には怒涛になるという,構成的にはかなり珍しい曲のように思います.

さらにいえば,変奏曲をほとんど作曲しなかったショパンにあって,聴いてすぐにわかるほどに「変奏曲」なテイストを感じます.もちろん,ショパンは変奏が嫌いだったわけでも不得意だったわけでもないと思いますが(実際,変奏が含まれる曲はたくさんあります),ここまであからさま変奏曲の香りが感じられる曲も,他にはあんまり無い気がします.そういうわけでこの曲は,何となくショパンぽくないのにすごくショパンぽいという,かなりの矛盾をはらんだ(?)独創的な曲じゃないでしょうか.特に,力強すぎるショパンの曲を聴いてからこの曲を聴くと,これは確かにショパンのイメージにぴったり!というような感じがします.