技巧的な難しさと表現の難しさ

誰もが言うことですが,ピアノ曲(に限らず器楽曲全般)の演奏難易度というのは指運びが難しいという「技巧的」な難易度と,聞いた人が感動を覚えるような表情をつけて弾くことが難しいという「表現」の難易度と,二つあると思います.一般的には後者のほうがはるかに難しいといわれます.極端な例を挙げれるなら,例えばハノン練習曲第一番を感動的に弾け!とか言われたとしましょう.この曲の技術的な難易度はたいしたことはありませんが,感動的に聞かせようと思うと相当に困難(私はどーしていいか分かりません)じゃないでしょうか.

ただ,実際に曲を演奏したときに表れる「表現」の力は,演奏者の「技巧的」な力を越えることができません.たとえば(潜在的に)表現力が「10」ある演奏者がいたとしても,技術力が「5」しかないとすれば,演奏される曲の与えられる感動の力(表現の力)は「5」になってしまう,ということです.もちろん技術力が10で表現力が5しかない場合でも,曲としては10点にはなりえませんが,技術力は得てして表現力の不足を微妙にカバーしてしまうこともあるので,7や8くらいに聞こえる可能性はあります.

ある弾きたい曲があるときに,「自分はここをこんなふうに表情をつけたいと思うのに,どうしても指が言うことを利かない!」というときは,たいてい「技巧的」な力が不足している状態です.弾きたい速度で弾けないとか,もっと強く弾きたいのに弾けない,というのも同じでしょう.個人的には,そういう経験はいくらでもあるのですが・・.

では,どうやったら今はできない「表現」の,技巧的問題をクリアできるのか?というと,一番よい方法は先生に教えを請うことでしょう・・・.しかし,忙しい現代人はなかなか教えを請いにいく暇もないかもしれないので,可能な範囲で「技巧的な問題を自己診断し,解決方法を得る」方法について,体系的に考えてみたいと思うわけです.ついでに,曲についての演奏の「技巧的な」難易度についても考え,これを数値で(機械的に)算出する試みもやってみたいと思ってます.