CD デバッグ

DTMピアノ曲を入力することに没頭していた頃,BBS を通じて集まった人たちで,各自1曲ずつ何かを打ち込んで MIDI データアルバムを作ろうという話になったことがありました.それで,友人の一人がこれに参加して,ショパン英雄ポロネーズを打ち込むことになりました.その友人は,曲は知っていたものの参考となるようなレコードや CD などをは持っておらず,当初は楽譜だけ見て想像でニュアンスを付けていたのだそうです.

しかし,途中で行き詰まりを感じたらしく,わたしに演奏の参考になるような何かいい CD を持っていないかと,直電(じかでん)してきたんですよね.それで,そのとき手元にあったポリーニ先生の(例によって超合金的演奏の)ポロネーズ集を手渡しました.その後,ポリーニ先生の演奏を参考にしならが,英雄ポロネーズのデータを打ち込んでいったそうです.打ち込みが終わってしばらくして,その友人はわたしに電話をかけてきました.

友人「このCDいいよね.英雄ばっかり毎日聴いてるんだけど.」
わたし「英雄ばっかり聴いてるの? それはもったいないよ.他のは聴いてみてないの?」
友人「あんまり聴いてないよー.他には軍隊ポロネーズくらいしか知らないし.」
わたし「個人的には,5番のポロネーズもかなり好きなんだけど・・.」
友人「あ,あの暗い曲?全然知らない曲だから,最初ちょっとしか聴いてないー.」
わたし「もったいない!」

などという会話の後,5番も聴いてみるといって友人は電話を切りました.

それからしばらくして,友人がまた電話をかけてきて「嬰へ(とポロネーズ第5番のことを友人は呼んでました)いいよね.何度も聴いてたら英雄より気に入った!」とか言い出すではないですか・・.

本当に気に入ったらしく,友人は2週間くらいでデータを打ち込んで,わたしのところに持ってきました.聴いてみると,なんとポリーニ先生の演奏とそっくり! よくもまあ,ここまでそっくりに作ったものだと感心していると,友人いわく「CDデバッグ」の賜物なのだそうです.なんのことかと思って聞いてみると,「CDを再生すると同時にデータを演奏して,ぴったり一致するようにデータを調整する」という作業なのだとか.なんとも気の遠くなるようなことをするものだと,わたしは唖然と・・いや感嘆するほかありませんでした.ともかく,友人が相当にこの曲を気に入ったことは確かです.