ピアノソナタ「悲愴」の回想

わたし自身,この曲のことは作曲者も曲名も知らないながらも,旋律だけはなんとなく知ってました.第一楽章,第二楽章とも有名で,TVCMに使われたりすることも多く,どこかで耳にしていたのだと思います.それでも,あくまで断片的に知っていただけで,ちゃんと全曲聞いたのはホロヴィッツ先生のCDを聞いたときでした.もともとはソナタ「月光」の演奏が聞きたくて買ったのですが,一緒「悲愴」「熱情」が入っていて,このとき初めて両方の曲とも全曲聴いて気に入りました.とはいっても,第一楽章だけでも普通に演奏すると8分以上かかるこの曲を,自分で練習して弾く気にはなりませんでしたが.

あるとき,外国から日本に技術研修に来る人が宿泊する施設で働いていたことがありました.この施設のロビーにはグランドピアノが置いてあり,このピアノは昼間なら誰でも弾いていいことになっていて,わたしも弾いていいよと言われていました.しかし,さすがに人がたくさんいるロビーで演奏を披露するほどのウデはありません.拙稚な演奏をして,日本の恥を世界に晒す結果になってもアレですし….だいたい,そのピアノを誰かが弾いているところを見たことがなかったですし.

ところがある日,勤務のためにロビーへ出てみたところ,ピアノの音がするじゃないですか.誰が弾いているのかと思って見に行ってみたら,演奏者はアラブ系の男の人でちょっとびっくり.そして,このときに弾いていた曲がまさにピアノソナタ「悲愴」でした.テンポはかなりゆっくり目でしたし,演奏技術もそれほどではありません.でも,CDで聞くのと生演奏では受ける印象が全然違います.ついつい仕事を放置して聞き入ってしまいました.そして,彼の演奏する手元を見てるうちに,「これなら弾けるかもなー」とか思ってしまったんですよね(大それたことに).その後,このときの演奏の印象がずっと残っていました.

それから1年ほどたって,安かった電子ピアノを衝動買いしてしまいました.買ったからには何か練習しなくては…と思って楽譜屋で(何故か)全音ピースを漁っていて目に留まったのが,たまたまこの曲だったというわけです.それもすでに7年ほど前のことだったりするのは気のせいということで.