ピアノソナタ「月光」の回想(1)

ピアノソナタ「月光」の第一楽章は,ピアノを弾き始めた初期の頃から弾いていた曲なので,いろいろと思い出深いものがあります.その反面,唯一まともに弾ける曲なのに自分で勝手な演奏条件をつけていたせいもあり,人前で演奏したことは数えるほどしかありません.

練習をしはじめたのは,確か中学三年生の夏くらいからだと思います.高校の受験勉強の合間に,息抜きと称して練習してました(むしろ,練習の合間に勉強していたような).その年の秋に予定されていた文化祭で,わたしのクラスはオリジナルの歌劇をやることになっていて,その練習のために音楽室を借りることがよくありました.わたしは音響の担当で,練習のあとは音響器材を片付ける用事があったことから,音楽室の鍵を預かっていました.この特権(?)を利用して練習の終わったあと,音楽室のグランドピアノを使って密かに一人で練習していた覚えもあります.

文化祭の前日も練習があって,練習のあとはいつものように月光の練習をしてました.文化祭が終わると音楽室を自由に使える特権を失ってしまうので,その日はかなり練習に気合が入ってました.あまりに気合が入っていて廊下に音が漏れていたせいか,ちっともわたしが教室に戻らないので心配になったのか分からないのですが,ピアノ弾いていることが友達にばれてしまったみたいです.そして,なんだかクラスの連中がぞろぞろと音楽室に入ってくるじゃないですか!

それまで,ピアノが弾けることは一部の友人以外には言っていなかったのに,このときに大々的にクラス中に知れ渡ってしまいました.そして,無理やりコンサート(?)ということになり,このとき初めて大勢の人を前にピアノの演奏をしました.まだ完全に曲を習得してない上に,友達とはいえたくさんの人を前にして緊張し,演奏はかなりめちゃくちゃだった気がします.人前で弾くのが,これほど緊張するものとは思いませんでした.

この突発的演奏会をやることになったとき,すでに午後6時を回っていました.確か10月頃だったので外はほぼ真っ暗.夕方からずっと練習していたので,電気は付けずにいたせいで音楽室もほぼ真っ暗.この謎のムードと曲の雰囲気がとてもマッチしていたせいか,自分としてはメチャクチャな演奏なのに,友達にはなんだか随分といい演奏に聞こえたようです.エレクトーンを習っていた友達の一人が,このとき聞いた月光ソナタを随分気に入ったらしくて,後で密かに練習したとかいう話も聞きました.

それ以来,この曲の演奏条件として「夜しか(人前では)演奏しない!」とか勝手に決めてしまったんですよね…